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『レヴィナス 無起源からの思考』斎藤慶典著を読んだ。

『レヴィナス 無起源からの思考』斎藤慶典著



おもしろかった。久しぶりに「哲学」書を読んだ、という気持ちである。哲学の説明書ではない。本当の哲学書である。


「思考」の書である。


読んでいると、「思考」が進んでいく。この「思考」というのは、普段頭の中で巡らしている「思考」ではない。


朝起きて、ベッドから立ち上がることを、「運動」と呼ばないように。普段、頭で思いめぐらすことは、「思考」ではない。


本書は、思考について思考する。それは「思考しえないもの」についての「思考」である。


いいや、思考しえないものを思考するということが、思考ということの本質なのである。


「思考」は「目覚め」である。「覚醒」である。


覚醒は言葉によらない。覚醒は言葉そのものである。覚醒は、思考しない。覚醒とは、思考するというそのことなのである。


目覚め、言葉をもち、思考をし、伝えるのではない。こういった順序ではない。


目覚めるとは、言葉によって、伝えるということなのである。


他者が「先に有り」、「あなた」へ伝えるためにこそ、「私」は目覚めたのである。


私は、倫理的に、目覚めたのだ。


安心によって眠り、不安によって目覚める。


目覚めることは、他者へと向かうことだ。方向とは意味(サンス)である。


ここで、私は、言葉を紡ぐだろう。


ここで、私は、行為をするだろう。


「他者のために」。


「正しさ」の中に埋没する前に、「よさ」へと開かれていよう。


他者を複数へと平均化し、私の価値観で照らす前に、私は他者に照らし出された、唯一の者でいよう。


闘うよりも、傷ついていよう。



さて、本書を読んだ後に、漠然と言葉を紡いでいったのが、上のような文章なのだが、本書自体は、「砂嵐のような文体」と自称するところではあるけれども、きちんと論理的な文章となっている。


本書は哲学者「レヴィナス」の思想の解説書という名目であるが、ほとんど斎藤自身の思考によって成り立っている。その証拠は、レヴィナスの原著による引用の少なさだ。


本書の、すべての文章が、れっきとした、斎藤自身による、思考によって成り立っている。そういった本は、私は、ほとんど読んだことがない。これが哲学書である。


大体の本は、「~について」の解説があって、そこから持論をすすめる、というものであるが、本書はそういったことはない。全文章が著者の思考である。そういった順序立てたところがないという意味で、「砂嵐のような文体」ではある。


私は、本書を読んで、大学時代に、独力で思考していた、自分自身のことを思い出した。


当時は、自分が社会の役立たずだと、惨めな感情を抱いていないわけではなかったが、社会人となった今、本書を読んで、むしろ、そのような独力の思考というものの、必要性を痛感するところである。


社会に埋没し、馴れ合いの正義によって、私はどれだけの人々を傷つけて来たのか。


仕方のないことだと忘れ、責任から逃れ、傷つくことをやめ、享受を求める、どれだけ私は、大人という名の、子どもであったことか。


存在は存在である。そのことによって、存在はむしろ無である。


パルメニデスは、いつも、間違える。


だから、私は、いつでも、あやまるのである。


本当の哲学書に、感謝する。



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